遺産分割では訴訟(裁判)はできない?訴訟が起こる場合はどんなケース?

裁判

相続での遺産分割は、通常まずは遺産分割協議を行います。
協議がまとまらなかった場合に遺産分割調停を行い、最終的に遺産分割審判になる、というのがだいたいの流れになります。

相手の主張を許せない、相手が全く聞く耳を持ってくれないというような場合、面倒な段階を踏まず、訴訟を起こして白黒はっきりさせたいと考える人もいるかもしれません。
しかし、基本的に遺産分割自体には訴訟(裁判)というものがありません(審判は訴訟に似ていますが、厳密には違います)。

他方で、相続に関して訴訟(裁判)になるケースもたくさんあります。

この記事では、一般的な遺産分割手続をおさらいしたうえで、相続について訴訟(裁判)になるケースをご紹介します。

1.一般的な遺産分割手続の流れをおさらい

遺産分割に関して裁判所での手続きを解説する前提として、まずは遺産分割の手続きを簡単におさらいしておきましょう。
なお、遺産分割について訴訟(裁判)ができる場合については「4.遺産相続で訴訟(裁判)ができるケース」から解説していますので、結論をお急ぎの方はそちらからお読みください。

細かい点を省略すると、一般的に遺産分割は次のように結論がまとまらなければ次に進むという形で段階を踏んでいくことになります。

①遺産分割協議

遺産分割を行う場合、まずは相続人同士で遺産分割協議を行います。
もしこの段階で話し合いがまとまれば、遺産分割協議書を作成することになります。

この記事では、遺産分割をスムーズに進めるために知っておくべき遺産分割の基礎知識を解説します。これから遺産分割をされる…[続きを読む]

②遺産分割調停

遺産分割協議で相続人同士の意見が合わず、協議が整わない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停を行います。ここでは調停委員と裁判官に間に入ってもらって遺産分割についての話し合いを継続します。

また、調停が成立すれば「調停調書」という合意内容を記した書面が作成され、これに基づいて登記や名義変更などの手続を進めることになります。

ただ、調停はあくまでも話し合いで、それを調停委員や裁判官がサポートしてくれる手続です。そのため、どうしても当事者の意見が合わなければ解決することはできません。

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③遺産分割審判

遺産分割調停で合意できず調停不成立になってしまったら、手続きは自動的に遺産分割審判になります。

遺産分割審判では、当事者が自分の主張とそれに関する立証を展開して、その内容を考慮しながら裁判官が審判を出します
審判は、訴訟の判決のようなもので、裁判官がその判断に基づいて下すものなので、当事者の思い通りになるとは限りません。

審判が出ると、一応その事件は審判内容に従って終結します。
例外的に、次にご説明する即時抗告を行い、争いが続くケースもあります。

2.遺産分割審判に納得できない場合は?

2-1.遺産分割審判に対しては即時抗告ができる

遺産分割審判の結果に納得できない場合は、即時抗告という不服申立手続きを利用できます。
即時抗告は、通常訴訟で言うと控訴のようなもので、高等裁判所で行われる抗告審です。

即時抗告の申し立ては、審判の告知から2週間以内に行わなければなりません。
こうした即時抗告の流れや申し立て方法の詳細はこちらの記事で解説しています。

遺産分割審判が下されたものの、どうしても納得できない場合にはどのようにすればよいでしょうか。遺産分割審判の即時抗告に…[続きを読む]

2-2.抗告審への不服申し立ては許可抗告、特別抗告

即時抗告後の抗告審にも納得できず、どうしても徹底的にやりたいという場合は、許可抗告と特別抗告という手続があります。

許可抗告

許可抗告とは、抗告審の判断が法令や判例に違反している場合に、高等裁判所に対して抗告の許可を求めることができる制度です(民事訴訟法337条)。
高等裁判所が許可した場合は、最高裁判所で判断されることになります。

特別抗告

特別抗告とは、抗告審の判断が憲法に違反しているか憲法の解釈の誤りがある場合に、最高裁判所に対して申し立てる制度です(民事訴訟法338条)。

このように、許可抗告や特別抗告は、認められる要件が非常に厳しく、即時抗告から先で結論が変わることはほとんどありません。
多くの遺産分割では、即時抗告審が終わった時点で、それを事実上の最終決定として受け入れる必要があるでしょう。

3.遺産分割事件の流れまとめ(フローチャート)

今まで、遺産分割についての裁判所を利用した解決方法について解説をしてきましたが、その中に訴訟手続がなかったことはお気づきかと思います。

しかし、冒頭で結論をお伝えしたように、遺産分割についての基本的な手続はこれまでご説明してきたとおりで、通常、訴訟を提起することはありません。
改めて、ここまでのご説明を簡単なフローにまとめると次のようになります。

遺産分割調停 調停委員・裁判官を介した話し合い
遺産分割審判 主張・立証を展開し、裁判官が独自で判断を下す
即時抗告 審判に不服の場合、高等裁判所で再度、主張・立証を展開し、決定が下される
許可抗告
特別抗告
即時抗告審の決定内容に法令違反や憲法違反等がある場合に限られる

4.遺産相続で訴訟(裁判)ができるケース

では、遺産分割では全く訴訟ができないかといえば、そうではありません。

遺産分割にあたり分割の前提となる部分についての争いや問題は、遺産分割手続きでは解決できないので、訴訟によって解決しておく必要がある場合があります。
例えば、次のような場合です。

  • 遺言書が有効かどうか
  • ある財産が遺産に含まれるかどうか(遺産の範囲の問題)
  • ある人が相続人に含まれるかどうか(相続人の範囲の問題)

これらは遺産分割そのものではないため、例えばこれらの前提問題を解決しないまま遺産分割調停を申し立てても、「先にこれらの問題を訴訟等で解決してください」となることがあります。

相続人や遺産の範囲については、家庭裁判所での遺産分割審判でも判断してもらうことは可能ですが、それだけでは解決せず、訴訟にすることも多いです。

また、遺留分の請求で任意の支払いが成立しない場合も、やはり訴訟を行うことになります。
以下で順番に解説します。

4-1.遺言書の有効・無効で訴訟になるケース

遺言書がある場合、通常は遺言書の内容に従って遺産分割や遺贈が行われますが、もし遺言書が無効な場合には法定相続分に従うか遺産分割協議を行うことになります。

つまり、遺言書が有効か無効かによって遺産分割が全く異なるため、遺言書の有効性に争いがあるときは遺産分割の前提として有効無効を確定しておく必要があります。
重度の認知症になっていたはずの時期に作成された遺言書などは、こうした争いになりやすいです。

この遺言書の有効性の争いについては「遺言無効確認請求訴訟」という訴訟で判断されます。

よく遺言書の無効が争われるケースの例
遺言能力がなかった 遺言能力がなければ、遺言全体が無効です(民法3条の2)。遺言者が認知症だった場合などが典型的で、非常によく争いになります(東京高裁平成25年3月6日判決、東京高裁平成21年8月6日判決など)。
遺言書の要件を満たしていない 典型的には自筆証書遺言の押印がない場合ですが(押印の代わりに花押があった場合に無効とした最高裁平成28年6月3日判決、拇印でも有効とした最高裁平成元年2月16日判決など)、公正証書遺言の作成時の証人が要件を満たしていなかった場合などもあります。
また、他人の添え手で書かれた遺言は無効になる場合もあります(最高裁昭和62年10月8日)。
偽造などの可能性 認知症の場合とも関連しますが、よくある例は「重度の認知症だったから、こんな遺言を書けるはずがない、偽造だ」というケースです。
共同して作成した遺言 例えば夫婦が2人で1通の遺言書を作成した場合などです。こうした共同遺言は禁止されており、無効です(民法975条)。「どこからが共同遺言か」等で争われることがあります。
公序良俗違反 遺言書の内容は基本的に自由ですが、社会的に不適切な内容は無効になることがあります(民法90条)。不倫相手への遺贈などがよく争われます。
その他 これらの他、詐欺・強迫によって作成された場合の取り消しや(民法96条)、錯誤、つまり勘違いによる取り消し(民法95条)なども問題になります。

4-2.ある財産が遺産に含まれるかで訴訟になるケース(遺産の範囲)

当然ながら、遺産分割は分割対象の財産が決まっていなければ始められません
そこで、遺産の範囲について争いがある場合には、まずはその内容を確定してから遺産分割の手続きを進める必要があります。

こうした遺産の範囲を確定するためには「遺産確認訴訟(遺産確認の訴え)」を行うことになります。

遺産の範囲が訴訟になる事例

たとえば被相続人が住んでいた家などの不動産が、相続人である長男名義になっているとき、長男が代金を負担した固有財産なのか、名義は長男でも被相続人が代金を負担した遺産なのか、ということで争いになることがあります。

被相続人名義の銀行口座が、実際には相続人のうち1人が自分のお金を積み立てる口座として利用していた場合や、逆に相続人名義の預貯金があるが、口座の内容は被相続人の財産である場合などもあります。

また、相続人間でよく争いになるのは死亡保険金(生命保険金)です。
これについては基本的に遺産に含まれません。

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この他、死亡退職金が遺産に含まれるかどうかが争われた事例があります。
財団法人の理事長である父が亡くなって、母に対して支払われた死亡退職金が遺産に含まれるかどうかが争われました(最高裁昭和62年3月3日判決)。
なお、このケースでは死亡退職金は遺産に含まれないと判断されています。

4-3.相続人の範囲で訴訟になるケース

次に、相続人の範囲が問題になる事例を見てみましょう。

遺産分割協議を行うには、相続人の範囲(誰が相続人になるのか)が確定している必要があります。誰が相続人になるのかがわからないと遺産分割ができないからです。
そこで、相続人の範囲に争いがある場合、それは遺産分割の前提問題として遺産分割前に解決しておく必要があります。

たとえば、ある相続人が相続欠格者に該当するかなどが問題になります。
民法では、問題のある相続人は相続欠格者として相続権を認めないようにしています(民法891条)。相続欠格者となるのは、以下のような場合です。

  • 故意に被相続人又は先順位・同順位にある者を死亡させたり死亡させようとしたりして刑に処せられた場合
  • 被相続人の殺害されたことを知っているのに告発や告訴をしなかった場合。ただし、その人に是非の弁別がないときや、殺害者が自分の配偶者・直系血族であったときのぞく
  • 詐欺又は強迫により、被相続人が遺言をしたり、撤回、取り消し、変更したりすることを妨げた場合
  • 詐欺又は強迫により、被相続人に相続に関する遺言をさせたり、撤回、取り消し、変更させたりした場合
  • 遺言書を偽造、変造、破棄、又は隠匿した場合
相続人の行為が一定の行為に該当すると、当然に相続権が失われます。この制度を「相続欠格」と言います。相続欠格の制度や相…[続きを読む]

具体的には、ある相続人が、遺言者の意思を実現させるために遺言書の法形式を整えるために遺言書を偽造・変造した場合に、相続欠格者となって相続資格を失うのかが争われた訴訟や(最高裁昭和56年4月3日判決)、不当な利益を目的とせずに遺言書を破棄・隠匿した相続人が欠格者になるかが争われた訴訟(最高裁平成9年1月28日判決)などがあります。

これらの訴訟では、いずれも相続欠格者にあたらないと判断されました。

4-4.遺留分侵害額請求(減殺請求)訴訟のケース

兄弟姉妹以外の相続人には、最低限の遺産の取得分として遺留分が認められますが、遺贈や生前贈与などによって遺留分が侵害されていたら、遺留分を請求することができます。

遺留分侵害額請求をするとき、当初は内容証明郵便などで請求したり話し合いをしたりしますが、これで合意できない場合には、遺留分侵害額請求調停を利用します。

調停でも合意できず不成立になった場合は、遺産分割とは異なり「遺留分侵害額請求訴訟」をすることになります。

最低限の遺産の取得割合である「遺留分」を取り戻すためには、遺留分侵害額請求をしなければなりません。遺留分侵害額請求の…[続きを読む]

4-5.その他に遺産相続で訴訟(裁判)になるケース

その他、相続回復請求権の時効の考え方をめぐって裁判が行われた事例もあります(最高裁昭和53年12月20日判決、最高裁平成11年7月19日判決など)。
これは、時効が完成しているかどうかの争いなので、遺産分割ではなく、訴訟手続きになります。

また、共同で不動産を相続した場合に、遺産である建物が、ある相続人によって相続開始後にも使われていたので、その利用分について他の相続人が賃料相当額の支払いをするように請求した訴訟もあります(最高裁平成8年12月17日)。
これも賃料相当額の支払いという金銭請求をするものなので、訴訟手続きになります。
なお、この訴訟では居住している相続人の使用借権が認められ、賃料相当損害金の支払いは不要であると判断しています。

まとめ

遺産相続に関してトラブルが起こることがありますが、遺産分割そのものに関するものについては遺産分割調停、審判などの手続きを利用して解決します。
遺産分割自体では訴訟は行われないのです。

これに対し、遺産分割の前提問題(遺言書の有効無効や遺産の範囲、相続人の範囲など)や遺留分にまつわる問題などについては、訴訟手続(裁判)で解決することになります。

このように、遺産分割は、遺産分割そのものの問題なのかその前提問題なのかによって、利用すべき裁判手続きが異なってきます。
ご自分の状況でどのような手続きが適切なのか、相手の言い分に対してどうすればいいのか等、お悩みのことがあれば弁護士に相談されることをおすすめします。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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