限定承認とは?手続き方法&期限&費用&必要書類を解説

相続が起こったとき、遺産の中に借金が含まれていることがあります。ここで役に立つのが「限定承認」という方法です。
しかし、限定承認は正直言って、内容的にも、手続き的にも難しい手続きです。理解をするだけでも大変かもしれません。
そこで今回は、「相続放棄と何が違うの?」「どういう時にやればいいの?」といった良くある質問を交えながら、限定承認について解説します。
相続を放棄すべきか、承認すべきか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.限定承認とは
限定承認とは、遺産の内容を調査して、プラスの部分が上回る場合にのみ、そのプラスの資産を相続する方法です。マイナスの負債が多い場合には相続の必要はありません。
と、これだけ聞いてもイマイチ「ピン」と来ないかもしれません。
そこで、限定承認のメリットやデメリット、どういう場合にやるべきかを、細かく見てみましょう。
2.事例で考える!限定承認のメリット
限定承認のメリットは、例があると分かりやすいです。
まずは事例を見ながら、限定承認のメリットを確認していきましょう。
事例1:相続財産が不透明な場合
多くの相続では、「資産や借金の全体像が見えない」ということが、良くあります。
たとえば、父・母・息子の3人という構成で、お父さんが亡くなった場合を例にしましょう。
お父さんが個人事業主で、資産の管理をお父さんが一括でやっていて、お母さんも息子も何も知らないという場合、お父さんが急死してしまったら、相続人である母子は「まずどういう資産状況だったのか」を確認しなければなりません。個人事業主ともなれば、借入金の一つや二つ、出てきます。しかし、仮に借金が一つでも見つかれば、「どれだけ借金していたんだろう…」と不安になります。きちんと調べないと、安易に単純承認はできません。
ところが、相続財産の調査は通常時間がかかります。
調査している間、相続に関して何もしなければ「単純承認」となって、借金も含めて全てが相続されてしまいます。
こういう時、限定承認をする実益があります。
事例2:自宅を残したい場合
先の事例の場合、少し勉強した人なら「相続放棄でもよいのでは?」という考えがよぎるかもしれません。
しかし、たとえば「実家(住居)がお父さん名義で購入・所有されていた」という場合で考えれば、どうでしょうか。
この場合、相続放棄をしてしまうと、実家も相続できなくなるため、住居がなくなります。
これは困りものです。安易に相続放棄も出来ません。
しかし、限定承認なら先買権というものがあります。
例えば実家の評価額を支払うことで実家だけは確実に残し、その他の借金については相続人負担を抑えるという方法もできます(民法932条ただし書)。
このように、単純承認も相続放棄も出来ないときに、限定承認のメリットが出てきます。
3.限定承認のデメリット
次に、限定承認のデメリットをご紹介します。
相続人全員で手続きする必要がある
限定承認のデメリットの1つ目は、必ず相続人全員で手続きする必要があることです。
共同相続人のひとりでも単純承認したら、その時点で限定承認はできなくなります。
相続人の一人が相続放棄をした場合には、その人が相続人でなくなるだけなので、それ以外の相続人全員で限定承認をすれば可能です。
とはいえ、相続人全員で足並みを揃えて手続きをする必要があるので、協議を整えるだけでも大変な手続きになりがちです。
手続きが複雑で時間がかかる
限定承認の2つ目のデメリットは、手続きに手間がかかって面倒なことです。
限定承認をしたい場合には、まず共同相続人全員で家庭裁判所に申述をします。その後、家庭裁判所で相続財産管理人が選任されて債権者や遺産内容の調査が行われ、必要な支払などを行ってようやく手続きが終わります。
この間、半年以上がかかることもあり、大変時間がかかります。
税金が別にかかる可能性がある
また、限定承認をすると、相続開始時の時価で被相続人から相続人に対して譲渡があったものとみなされ、「みなし譲渡所得税」が課される可能性があります(所得税法59条)。
みなし譲渡所得税の仕組みは少し複雑なので、別の記事で解説しています。気になる方は読んでみてください。
【参考】限定承認した場合の税金
すごく簡単にまとめると、「税金処理なども別に考えないといけない」ということです。
相続税なども含めて、税理士にも相談する必要性が出てくるかもしれません。
4.限定承認すべき人は?
限定承認のメリットとデメリット、事例などを踏まえた上で、限定承認をすべき人は、どのような人でしょうか。
どうしても守りたい遺産がある場合
先祖代々の家や家宝、現に住居としている住まいなど、どうしても受け継ぎたいものがあるが借金も多いという場合、限定承認がおススメです。
資産と借金の全体が見えない場合
借金が色々ありそうだけど、プラスの財産とどっちが多いか分からないという場合も、限定承認をしておくことで思わぬ借金を避けられるので、限定承認がおススメです。
5.限定承認の手続き
限定承認は、まず「家庭裁判所」で「相続の限定承認の申述」という手続きをとるところから始まります。
申立先
申立先は、被相続人が亡くなったときの住所(住民登録していた住所)の家庭裁判所です。
管轄が分かれているので、下の裁判所ホームページから調べてみてください。
【参考】管轄裁判所についてはコチラ
必要書類
用意すべきものは、大きく分けると2種類です。「限定承認の申述書」と「戸籍に関する書類(戸籍謄本など)」に分けられます。
限定承認の申述書
裁判所に、申述書の書き方(ひな形)や、書式のダウンロードが出来るページがあります。
これを見ながら書類を用意しましょう。
申立書の書式のダウンロードページ(裁判所)
記入例(裁判所)
記入例(ひな形)を見ていただけると分かりますが、遺産目録の箇所に「今判明している範囲での遺産の状況」を出来るだけ正確に記載し、分からない部分を「未調査」として書くようになっています。
最終的には全てを調べることになるので、分かっている範囲だけでも丁寧に記載するようにしましょう。
戸籍に関する書類
どのようなケースでも必要になるもの |
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・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本 ・被相続人の住民票除票又は戸籍附票 ・申述人全員の戸籍謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本 |
上記のほかに、申述人が誰かによって別途必要になる書類もあります。
詳細は下記ページをご確認ください。
【参考】相続の限定承認の申述(裁判所)
限定承認でかかる費用
項目 | 費用 |
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手数料 | 収入印紙 800円 |
家庭裁判所からの連絡用 | 切手代(数百円) |
戸籍謄本 | 450円/1通 |
除籍・原戸籍謄本 | 750円/1通 |
家庭裁判所に納める手数料や戸籍謄本の入手費用などが掛かります。一つ一つはそれほど高額ではないですが、必要な戸籍謄本の数が増えるとそれなりの金額になります。
6.限定承認できる期間
原則3カ月以内
限定承認は、①被相続人が亡くなったことと②自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に決めなければいけません(民法915条1項)。この3ヶ月を過ぎると、原則として限定承認はできなくなり、自動的に「単純承認」になります。
3カ月を過ぎそうな場合、延長申請をする
ただ実際には、限定承認すべきかを3カ月では決められないこともあります。例えば、不動産や株など金銭評価が必要なものの評価に時間がかかったり、どこで連帯保証人になっていないか分からないなど、相続財産の全体が掴めない場合が典型的です。
この場合、家庭裁判所に期限の延長申請をします。
限定承認は弁護士に依頼しよう!
限定承認をする場合、本当にその手続きをしてしまって良いかどうかの判断が難しいことがあります。また、限定承認は共同相続人全員でしないといけないので、他の相続人が単純承認したり相続放棄したりする前に声をかけて、足並みを揃えて行わなければなりません。
さらに、限定承認の手続き自体も手間と時間がかかります。
そこで、限定承認をする場合には、まずは弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、そもそも限定承認すべきケースかどうかを適切に判断してくれますし、限定承認をすべきと言うことになれば、速やかに他の相続人とも連絡を取って限定承認申述の手続をすすめてくれます。
法的知識も豊富で手続きのこともよくわかっているので、必要書類の収集や申述手続きもスムーズですし、申述後の相続財産管理人による手続きも同様です。
限定承認について悩んでいる方は、弁護士に連絡をして相談してみましょう。