限定承認とは?手続き方法や期限、費用、必要書類などを解説
相続が起こったとき、遺産の中に借金が含まれていることがあります。ここで役に立つのが「限定承認」という方法です。
しかし、限定承認は内容的にも、手続き的にも難しい手続きです。
そこで今回は、「相続放棄と何が違うの?」「どういう時にやればいいの?」といった良くある質問を交えながら、限定承認について解説します。
相続を放棄すべきか、承認すべきか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
1.限定承認とは
限定承認とは、遺産の内容を調査して、プラスの部分が上回る場合にのみ、そのプラスの資産を相続する方法です。マイナスの負債が多い場合には相続の必要はありません。
と、これだけ聞いてもイマイチ「ピン」と来ないかもしれません。
そこで、限定承認のメリットやデメリット、どういう場合にやるべきかを、細かく見てみましょう。
2.限定承認のメリット
次に、限定承認のメリットを確認していきましょう。
2-1.マイナス財産を相続しない
限定承認をすると、被相続人の借金などの負債を相続する必要がありません。さらに、遺産が負債の額を超えていれば、超えた分を相続することができます。
一方で、相続放棄をすると遺産を一切相続することはできず、単純承認をすると被相続人の負債は自腹でも返済しなければなりません。
限定承認をすれば、最悪遺産がゼロになるだけで済ませることができます。
2-2.先買権により特定の遺産を残すことができる
限定承認をすると、先買権を行使することができます。
限定承認をすると、プラスの財産でマイナスの財産を清算する手続きに進み、金銭での清算では不足する場合には、不動産などを競売し、換価することで清算することになります。
しかし、限定承認をした相続人は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことで、競売せずに不動産などを優先的に入手することができます(民法932条但書)。この権利を「先買権」といいます。
この先買権を行使することで、ご自分の居住していた不動産などを対価を支払うことで特定の遺産を残すことができます。
2-3.後から遺産や債務が発覚しても柔軟な対応ができる
限定承認をした後に、債権者から借金などの返済を求められても、相続財産の総額が返済の限度で返済すればよく、限定承認後に遺産を発見した場合には、相続することができます。
3.限定承認のデメリット
次に、限定承認のデメリットをご紹介します。
3-1.相続人全員で手続きする必要がある
限定承認のデメリットの1つ目は、必ず相続人全員で手続きする必要があることです。
相続人の一人が相続放棄をしても、相続人ではなくなるだけなので、それ以外の相続人全員で限定承認をすることは可能です。
とはいえ、相続人全員で足並みを揃えて限定承認をする必要があるので、話し合いを整えるだけでも大変な作業となります。
3-2.手続きが複雑で時間がかかる
限定承認の2つ目のデメリットは、手続きに手間がかかって面倒なことです。
限定承認をしたい場合には、熟慮期間内に共同相続人全員で家庭裁判所に申述をします。
相続人が複数いる場合は、家庭裁判所によって相続財産清算人が選任されて遺産内容の調査が行われ、債権者に必要な支払などを行ってようやく手続きが終わります。
この間、半年以上がかかることもあり、大変時間がかかります。
3-3.税金が別にかかる可能性がある
また、限定承認をすると、相続開始時の時価で被相続人から相続人に対して譲渡があったものとみなされ、相続時の時価が被相続人が取得したときの時価を超えると、譲渡所得税が発生します。
相続税なども含めて、税理士にも相談する必要性が出てくるかもしれません。
なお、譲渡所得税について詳しくお知りになりたい方は、次の記事をご一読ください。
4.限定承認すべき人は?
限定承認のメリットとデメリットを踏まえた上で、限定承認をすべき人は、どのような人でしょうか。
4-1.どうしても守りたい遺産がある場合
先祖代々の家や家宝、現に住居としている住まいなど、どうしても相続したいものがあるが借金も多いという方には、限定承認がおススメです。
4-2.資産と借金の全体が見えない場合
マイナスの財産とプラスの財産どちらが多いか分からないという方も、限定承認をしておくことで思わぬ借金を避けられるため、限定承認がおススメです。
5.限定承認の手続き
限定承認は、まず「家庭裁判所」で「相続の限定承認の申述」という手続きをとるところから始まります。
5-1.限定承認の申立先
申立先は、被相続人が亡くなったときの住所(住民登録していた住所)の家庭裁判所です。
具体的な管轄については、以下の裁判所ホームページから調べてみてください。
【参考外部サイト】「裁判所の管轄区域」|裁判所
5-2.限定承認の必要書類
用意すべきものは、大きく分けると2種類です。「限定承認の申述書」と「戸籍に関する書類(戸籍謄本など)」に分けられます。
限定承認の申述書
裁判所に、申述書の書き方(ひな形)や、書式のダウンロードが出来るページがあります。
これらを見ながら書類を用意するとよいでしょう。
記入例(ひな形)を見ていただけるとお分かりいただけますが、遺産目録の箇所に「今判明している範囲での遺産の状況」を出来るだけ正確に記載し、分からない部分を「未調査」として書くようになっています。
最終的には全てを調べることになるので、分かっている範囲だけでも丁寧に記載するようにしましょう。
「相続の限定承認の申述書」|裁判所
申立書の記載例
戸籍に関する書類
戸籍に関する書類は、申立人と被相続人との関係によって変わります。ここでは、共通で必要となる書類を挙げておきます。
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 申述人全員の戸籍謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合は、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
詳細は下記ページをご確認ください。
【参考外部サイト】「相続の限定承認の申述」|裁判所
5-3.限定承認でかかる費用
項目 | 費用 |
---|---|
手数料 | 収入印紙 800円 |
家庭裁判所からの連絡用 | 切手代(裁判所によって異なるため、申し立てをする裁判所に直接ご確認ください) |
戸籍謄本 | 450円/1通 |
除籍・原戸籍謄本 | 750円/1通 |
家庭裁判所に納める手数料や戸籍謄本の入手費用などが掛かります。一つ一つはそれほど高額ではないですが、必要な戸籍謄本の数が増えるとそれなりの金額になります。
※ 申し立てをする家庭裁判所にご確認ください。
6.限定承認できる期間
6-1.原則3カ月以内
限定承認は、①被相続人が亡くなったことと②自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に決めなければいけません(民法915条1項)。
この3ヶ月を過ぎると、原則として限定承認はできなくなり、自動的に「単純承認」になります。
6-2.3カ月を過ぎそうな場合、延長申請をする
ただ実際には、限定承認すべきかを3カ月では決められないこともあります。
例えば、不動産や株など金銭評価が必要なものの評価に時間がかかったり、どこで連帯保証人になっていないか分からないなど、相続財産の全体が掴めない場合が典型的です。
この場合、家庭裁判所に期限の延長申請をします。
限定承認は弁護士に依頼しよう!
限定承認は共同相続人全員でしないといけないので、他の相続人が単純承認したり相続放棄したりする前に声をかけて、足並みを揃えて行わなければなりません。
さらに、限定承認の手続き自体も手間と時間がかかります。
そこで、限定承認をする場合には、まずは弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、そもそも限定承認すべきケースかどうかを適切に判断してくれますし、限定承認をすべきと言うことになれば、速やかに他の相続人とも連絡を取って限定承認申述の手続をすすめてくれます。
法的知識も豊富で手続きのこともよくわかっているので、必要書類の収集や申述手続きもスムーズで、申述後の相続財産清算人による手続きも同様です。
限定承認について悩んでいる方は、弁護士に連絡をして相談してみましょう。