いらない不動産を相続したときの解決策!換価分割の進め方
自宅から離れた田舎の空家、使うことのない田畑。相続しても困ってしまいますよね。 実際に、実家の親が住んでいた家屋を相…[続きを読む]
遺産分割には法律上決まった方法はなく、相続人全員が合意できれば、どのように分割しても問題はありません。民法では、目安として相続人ごとに法定相続分が規定されてはいますが(民法900条)、それに準じる必要もありません(そもそも法定相続分で相続した場合には、遺産分割協議が必要なく、遺産分割協議書も必要ないことになります)。
したがって、相続人全員が同意できれば、遺産を割合で分割することも可能です。さらに、預貯金や株式は割合で遺産分割し、不動産は特定の相続人1人が取得するといった方法でもかまいません。
しかし、遺産には、相続人間で割合で遺産分割すると後からトラブルの原因となってしまうものがあります。
そこで、相続人が割合で遺産分割する場合の注意点や、割合で遺産分割した場合に、遺産分割協議書にはどのように記載すればいいのかについて解説することにしましょう。
最初に遺産分割を割合で行う場合の注意点についてご説明しましょう。
被相続人の不動産を相続人間で割合で分割する場合には、リスクやデメリットが伴います。相続人が割合を決めて不動産を分割することは、不動産を準共有することになるからです。
不動産を準共有状態で承継し、そのまま放置されると、その後、相続が繰り返されることで相続関係が複雑になってしまい、持ち主が分からくなるリスク・デメリットがあります。
さらに、不動産を相続人間で共有すると、管理や売却といった処分をする際に、持分の価格の過半数の賛成が得られない限り、管理・処分ができないといったリスク・デメリットがあります(民法252条)。
こうしたリスク・デメリットを回避するために、不動産を相続人間で割合を決めて準共有す前提として、売却処分よる換価分割をすることが考えられます。
上場株式を割合で遺産分割すると、不動産と同様に株式は割合を取得した相続人全員の準共有となります。
その場合には、誰がどのように議決権を行使するのかが問題となります。議決権を行使する場合には、共有者の持分の価格の過半数により議決権行使者を決定し、会社に報告する必要があります。こうすることで、議決権行使者は、自分の判断のみで議決権を行使することが可能になります。
そのため、株式を相続人の割合によって遺産分割するメリットはほとんどないと言えるでしょう。
被相続人の借金などの債務を割合で承継すること自体には、特にリスクやデメリットはありません。
ただし、1つ問題となるのが、相続人間で合意された債務の承継は、被相続人の債権者の合意がない限り対抗することができないため、相続人内での取り決めに過ぎないことになってしまうことです。
したがって、相続人間で債務の承継方法を取り決める場合には、できれば債権者の合意を得ておくのが得策です。
では、続いて本題の割合で遺産分割をした場合の遺産分割協議書の書き方についてご説明します。
現金や預貯金は、1円単位まで相続人の割合によって遺産分割できるため、相続人ごとに割合で分割しても特に大きなリスクやデメリットはありません。
預貯金を割合で遺産分割した場合には、次のように記載します。
1.以下の遺産について、相続人甲が4分の3、乙が4分の1の割合で、それぞれ取得する。
甲は代表相続人として、以下の遺産の解約及び払い戻し又は名義変更の手続きを行い、乙の取得分について、別途乙の指定する口座に振り込んで引き渡す。その振込に必要な手数料は、乙の負担とする。(1)預貯金
〇〇銀行〇〇支店
普通預金 口座番号******
口座名義人 〇〇〇〇
(残高 〇〇万円)
なお、割合で現預金を遺産分割した場合に生じた端数の記載については、次の記事を参考にしてください。
万一、株式などの有価証券を割合で遺産分割した場合には、遺産分割協議書に次のように記載します。
2.以下の遺産について、相続人甲が4分の2、乙が4分の1、丙が4分の1の割合で、それぞれ取得する。
(1)有価証券
○○証券□□支店
口座番号 △△△ー△△△△
銘柄 ○○(銘柄コード○○〇)
株式数 ○○株
不動産を割合で遺産分割した場合の遺産分割協議書の書き方は、次の通りです。
3.以下の遺産について、相続人甲が3分の1、乙が3分の1、丙が3分の1の割合で、それぞれ取得する。
(1)土地
所在 東京都○○区△△町□□丁目
地番 ○○番〇
土地の種類 宅地
地積 ○○平方メートル(2)建物
所在 東京都○○区△△町□□丁目○○番地
地番 ○○番
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階○○平方メートル、2階○○平方メートル
マンションを相続人ごとの割合で遺産分割した場合の記載例は次の通りです。
4.以下の遺産について、相続人甲が4分の1、乙が4分の1、丙が4分の1、丁がの割合で4分の1、それぞれ取得する。
(1)建物
一棟の建物の表示
所在 東京都渋谷区恵比寿3丁目31番地12
建物の名称 ○○マンション専有部分の建物の表示
家屋番号 渋谷区恵比寿3丁目31番地12の301
建物の名称 301
種 類 居宅
構 造 鉄筋コンクリート造15階建
床 面 積 10階部分 〇〇.〇〇㎡敷地権の目的たる土地の表示
符 号 1
所在及び地番 東京都渋谷区恵比寿3丁目31番地12
地 目 宅地
地 積 〇〇〇.〇〇㎡
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 〇〇〇〇〇〇分の〇〇〇〇
前述した通り、換価分割を前提に、不動産を相続人間で割合で遺産分割した場合には、次のような太字で追加した文言を入れるといいでしょう。
3.換価分割を目的として、以下の遺産を、相続人甲が3分の1、乙が3分の1、丙が3分の1の割合で、それぞれ取得する。
(1)土地
所在 東京都○○区△△町□□丁目
地番 ○○番〇
土地の種類 宅地
地積 ○○平方メートル(2)建物
所在 東京都○○区△△町□□丁目○○番地
地番 ○○番
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階○○平方メートル、2階○○平方メートル4.相続人甲、相続人乙、及び相続人丙は、共同して前項の不動産を売却し、売却代金から売却にかかるすべての費用を控除した残額を、それぞれの共有持分に応じて取得する。
被相続人の借金など債務を相続人間で割合を決めて遺産分割する場合には、次のように記載します。
5.相続人甲、同乙、及び同丙は、被相続人の株式会社○○銀行対する平成〇年〇月〇日付借入金〇〇〇万円を各3分の1の割合で負担する。
以上をまとめると、次のようなサンプルが出来上がります。
※ サンプルの遺産分割協議書では、株式を相続人1人が承継することになっています。
遺産分割協議書
被相続人 相続太郎
本籍地 鹿児島県○○市○○
死亡時の住所 東京都○○区○○
生年月日 昭和○○年〇月〇日
死亡年月日 令和〇年〇月〇日被相続人相続太郎の遺産について、被相続人の妻相続花子、被相続人の長男相続一郎、被相続人の長女相続花江によって遺産分割協議を行った結果、次のとおり合意が成立した。
1.以下の遺産について、相続人相続花子が2分の1、相続一郎が4分の1、相続花江が4分の1の割合で、それぞれ取得する。
相続一郎は代表相続人として、以下の遺産の解約及び払い戻し又は名義変更の手続きを行い、相続花子及び相続花江の取得分について、別途相続花子及び相続花江の指定する口座に振り込んで引き渡す。その振込に必要な手数料は、相続花子及び相続花江の負担とする。
(1)預貯金
〇〇銀行〇〇支店
普通預金 口座番号******
口座名義人 〇〇〇〇
(残高 〇〇万円)2.換価分割を目的として、以下の遺産を、相続人相続花子が3分の2、相続一郎が6分の1、相続花江が6分の1の割合で、それぞれ取得する。
(1)土地
所在 東京都○○区△△町□□丁目
地番 ○○番〇
土地の種類 宅地
地積 ○○平方メートル(2)建物
所在 東京都○○区△△町□□丁目○○番地
地番 ○○番
種類 居宅
構造 木造スレート葺2階建
床面積 1階○○平方メートル、2階○○平方メートル3.相続人甲、相続人相続花子、相続一郎及び相続花江は、共同して前項の不動産を売却し、売却代金から売却にかかるすべての費用を控除した残金を、それぞれの共有持分に応じて取得する。
4.相続人相続花子、相続一郎、及び相続花江は、被相続人の株式会社○○銀行対する平成〇年〇月〇日付借入金〇〇〇万円を各3分の1の割合で負担する。
5.相続花江は、以下の遺産を取得する。
(1)有価証券
○○証券□□支店
口座番号 △△△ー△△△△
銘柄 ○○(銘柄コード○○〇)
株式数 ○○株上記協議の成立を証するために本書面3通を作成し、各署名捺印して各自1通を保管する。
令和〇年〇月〇日
住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人 相続花 ㊞住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人 相続一郎 ㊞住所 東京都○○区○○丁○○番○○号
相続人相続花江の特別代理人 甲野太郎 ㊞
下のボタンを押すと、wordやPDF形式でダウンロードしていただけます。ただし、サンプル通りに記載する必要はありません。
wordをダウンロード | PDFをダウンロード |
遺産分割協議とは、文字通り相続人ごとに遺産を分割することです。
現金や預金以外を割合で遺産分割すると、遺産が準共有状態となってしまうため、何らかのデメリットが発生する一方で、メリットはほとんどありません。
また、冒頭でも述べた通り、法定相続分による割合で相続すれば、遺産分割協議は不要であり、現預金以外を相続人の割合で遺産分割する意味はあまりないといえるでしょう。
不可避な状況以外では、基本的にお勧めできない方法です。
遺産分割協議書は、法律上の決まった様式があるわけではなく、相続人自身が作成することが可能です。
しかし、遺産分割協議に不備が見つかると、提出先で受け付けてもらえない可能性もあります。
一方で、遺産分割自体を弁護士に依頼すると、相続人や遺産の調査から遺産分割協議への代理人としての参加、遺産分割協議書の作成までまとめて代理してもらうことができます。
こうしたメリットを享受したい場合には、弁護士などの専門家に任せてみてはいかがでしょうか。