自分で登記できない!?遺産分割調停で必要な登記手続条項とは

「遺産分割調停が進み、不動産を相続できることになった。次回の調停で最後だ、ホッとひと安心」と考えている方、まだ安心はできません。

裁判所が作成した調停調書があっても、一人では不動産の名義を変更できないケースがあります。
登記手続に必要な「登記手続条項」が調停調書に書かれていないことがあるからです。

ここでは、相続した不動産の登記に必要な調停調書の記載事項についてご説明します。

1.遺産分割調停が終わっても登記が必要

1-1.相続不動産の登記申請は自分で行う

遺産分割調停が成立し、自分が不動産を相続する内容の調停調書を受け取っても、相続の手続が終了したわけではありません。
調停が成立しても、自動的に不動産の登記名義が変更されるわけではないからです。

名義変更の登記手続は、自分で行わなくてはならないのです。

1-2.登記しないと不動産を第三者に取られる!?

遺産分割調停が成立した後も登記名義を変更しないまま放置しておくとどうなるのでしょうか?

実は、名義を変更しないままでいると、不動産が第三者のものになって取り戻せなくなってしまうことがあります。
例えば、他の相続人がその不動産を第三者に売却して第三者が登記してしまうと、その第三者に対して「本当に相続したのは自分だ」と主張して不動産を取り戻すことはできないのです(最高裁昭和46年1月26日判決)。

そのため、調停調書を受け取ったら、速やかに登記手続を済ませるべきです。

2.登記手続条項がないと自分だけではできない?

ただし、調停調書の記載内容によっては、あなた一人では登記手続を受け付けてもらえない場合があるのです。どういうことでしょうか?

2-1.登記手続条項がないときの具体例

具体例で説明しましょう。
次のような相続関係があるとします。

  • 被相続人:父親A
  • 相続人:長男B、次男C、三男D
  • 遺産:土地1つのみ
  • 遺産分割の内容:遺産の土地を長男Bが単独相続

遺産分割前の段階では、不動産の登記名義は、主に次の2通りのどちらかの状態です。
それぞれについてご説明します。

  1. 被相続人A名義のまま
  2. B,C,Dの各共有持分を3分の1ずつ(法定相続分どおり)とする共同相続の登記がしてある

被相続人A名義の登記があるとき

土地の登記が被相続人A名義のままの場合は、これを遺産分割で取得したことが調停調書に記載されていれば、B単独での登記申請で取得者B名義での相続登記を行うことが認められています(昭和19年10月19日民事甲692号民事局通達)。

そこで、調停調書に、例えば次のような記載さえあれば登記できることになります。

申立人Bは、別紙遺産目録記載の土地を取得する

B,C,Dの共同相続の登記があるとき

これに対して、不動産の名義をB,C,Dの共同相続登記にしていた場合、上のような文だけが記載された調停調書では、B単独での登記申請は受け付けてもらえません

通常、登記は、権利を得る者(登記権利者)と権利を失う者(登記義務者)が、共同で申請しなければいけないことにされているからです。共同申請の原則と言います(不動産登記法60条)。

今回の例で言えば、土地全体の権利を得るBが登記権利者、共有持分を失うCとDが登記義務者になります。
このため、B単独の名義に登記を変更するには、BとC,Dとで共同で申請する必要があります。
もしCとDの協力を得られないときには、不動産の名義を変更する登記手続に協力するよう訴訟を起こして判決をもらわなければなりません。

しかし、せっかく遺産分割調停で決着がついたのに、今度は訴訟をしなければならないのでは、無駄な時間も費用もかかりますし、相続人同士の関係は更に悪化してしまいます。

どうすればこのような事態を避けられるのでしょうか?

3.登記手続条項があれば自分1人で登記できる

3-1.登記手続条項とは

実は、このような事態を避ける簡単な方法があるのです。
それが、登記手続条項の記載です。

登記手続条項とは、登記義務者に、登記移転手続を行うようを義務づける(命令する)条項です。
具体的には、次の例の「2」の部分のようなものです。

調停調書の条項例:Bが単独相続する場合

1、申立人Bは、別紙遺産目録記載の土地を取得する。

2、相手方C及びDは、それぞれ申立人Bに対し、別紙遺産目録記載の土地の持分各3分の1について、本日付遺産分割を原因とする持分全部移転登記手続をする。

この登記手続条項があれば、Bは調停調書を使って単独で登記をすることが可能となります。

3-2.登記手続条項を記載してもらうために

このように、登記手続条項は、不動産の遺産分割調停ではとても重要なものです。
必ず調停調書に登記手続条項を記載するよう裁判所に要求しましょう。

「家庭裁判所の調停なのだから、わざわざ言わなくてももちろん登記手続条項を入れてくれるだろう」と思われるかもしれませんが、そうとは限りません。
実は、裁判官や調停委員が不動産登記の実務をよく知らないために、登記手続条項を忘れてしまうケースは珍しくないのです。

そのため、登記手続条項を記載してもらうよう自分から要求しないと、結局不動産の登記ができず、不利益を被る危険性があります。

4.登記できない?|調停調書の誤りへの対処方法

皆さんは、このように当事者が要求しないと登記に必要な条項が記載されない場合があると聞くと、「裁判所なのに?」と驚かれるかもしれません。
しかし、裁判官らも人間です。知らないこともありますし、ミスをすることもあります。

例えば、土地の住所に誤記があったり、相手方の名前の漢字が一文字だけ違っていたりなどの単純ミスがあります。
しかし、どんなに些細な単純ミスであることが明らかでも、そのままでは法務局に登記を受け付けてもらえません。

この場合は、家庭裁判所に申立てて、間違いを正す「更正決定」をしてもらう必要があります(家事事件手続法77条)。

更正決定がなされると一週間以内に確定しますので(民事訴訟法332条)、さらに確定したことを証明する「確定証明」も交付してもらって、ようやく登記ができるようになります。

5.遺産分割調停は弁護士に相談がおすすめ

「遺産分割調停だから、裁判所におまかせしておけば何も心配はないだろう」、そのように安心していると、出来上がった調停調書に登記手続条項がなかったり、誤記があったりで、せっかく取得した不動産の登記ができない場合があります。

登記ができないままだと不動産を失う危険もあります。
このようなトラブルを避けるためには、遺産分割調停の前に、弁護士や登記に強い司法書士に相談し、アドバイスを受けながら慎重に進めることが大切です。

取り返しのつかないことになったり、後から調書の訂正をしてもらうなどの大変なことにならないよう、早めに相談するようにしましょう。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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