共有名義の相続|共有不動産のリスクと適切な処理方法などを解説

住宅ローンとの関係などにより、自宅の土地・建物や、マンションなどを夫婦で共有しているような状況はよく見られます。
このような共有の財産を相続する場合には、ただでさえ一つの物に複数の人の権利がある状態から、さらに権利が細分化されてしまう可能性があります。
共有の財産について安易な相続処理をしてしまうと、後に親族間の紛争の火種となってしまうこともあります。
そのため、早い段階から法律関係を整理しておくことが大切です。
この記事では、「共有」について簡単にご説明したあと、共有名義の財産を相続する際の注意点や処理方法などについて詳しく解説します。
目次
1.共有とは
「共有」とは、一つの物を複数の人が共同で所有している状態をいいます。
各共有者が共有物について持っている権利を「共有持分権」と呼びます。
通常の所有権であれば、所有者がその所有物について単独で完全な権利を持っています。
しかし、共有の場合は権利者が複数いるため、各共有者間での権利の調整が必要となります。
共有についての細かいルールは民法に定められています(民法249条以下)。
2.共有物に潜む紛争のリスク・問題点とは
共有物については、権利者が複数いることから、紛争の原因になってしまうことがしばしばあります。
円満な夫婦が自宅の土地・建物を共有している場合のように、各共有者間で意見が一致している場合であれば特に問題は生じません。
しかし、相続によって別々の生活を営む親族が共有持分権を有するようになると、各自がばらばらに自分の権利を主張する事態が発生する可能性があります。
この場合、共有物の通常の使用や処分などが妨げられてしまうことになるでしょう。
以下では、民法に定められた共有のルールに沿って、共有者間で揉め事が発生した場合にどのような事態になってしまうのかを具体的に解説します。
2-1.共有物の変更には共有者全員の同意が必要
共有物に変更を加えるためには、共有者全員の同意が必要です(民法251条)。
共有物の「変更」とは、共有物の物理的変化を伴う行為、および法律的な処分行為をいいます。
具体的に、共有物の物理的変化を伴う行為としては、以下のような例が挙げられます。
- 廃棄または消費
- 土地の造成工事、用途変更
- 土地上に建物を建築すること
- 建物の大規模改築、建替え
また、法律的な処分行為としては、以下のような例が挙げられます。
- 売却または贈与
- 地上権、地役権などの用益物権(他人の土地を使うための権利)の設定
- 借地借家法の適用がある強力な賃貸借契約の締結
- 抵当権や質権などの担保権の設定
共有者同士でこれらの変更について意見が食い違っている場合には、共有物の変更を行うことができません。
典型的な例で、共有者の何人かが共有物である土地を売りたいと考えていても、残りの一人が反対していれば売却はできないことになります。
その場合は、交渉によって反対者から共有持分権を売り渡してもらったりすることが必要となり、非常に手間がかかってしまいます。
2-2.共有物の管理には過半数の持分を有する共有者の同意が必要
共有物の管理に関する事項は、共有持分割合で見て、共有者の過半数の同意により決定するものとされています(民法252条)。
共有物の「管理」とは、共有物を利用・改良する行為をいいます。
具体的には、以下のような例が挙げられます。
- 借地借家法の適用がない賃貸借契約の締結
- 土地や建物の管理方法の決定
たとえば1つの物について、3人が3分の1ずつの共有持分権を持っているとしましょう。
このような場合に、共有物の管理について全員がばらばらの意見を持っていたとすると、共有物の管理についての意思決定を全く行うことができなくなってしまいます。
こうした共有物について意思決定できない状態は「デッドロック」と呼ばれます。
2-3.共有者全員が共有物全部を使用する権利を持っている
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるものとされています(民法249条)。
たとえば1つの物について、共有者Aが100分の99、共有者Bが100分の1の共有持分権を有している場合を考えてみましょう。
この場合、100分の99の共有持分権を持っている共有者Aの方が圧倒的に強い権利を持っているということは間違いありません。
しかし、100分の1しか共有持分権を持っていない共有者Bも、その物を100分の1しか使えないわけではなく、その物全体を使用することができます。
もちろん、「持分に応じた使用」とされているので、より強い権利を持っている共有者Aの使用が優先されるべきではあるでしょう。
しかし、共有者Aは共有者Bがその物を使用することを拒否することはできません。
これは、共有者Aにとっては権利の細分化の弊害を受けてしまっている状態といえます。
共有者が増えれば増えるほど、この弊害は大きくなっていくでしょう。
2-4.共有物分割請求について
各共有者は、原則としていつでも共有物の分割を請求することができるものとされています(民法256条1項)。
たとえば、自宅の土地・建物の管理処分の方法について共有者間で意見が食い違っている場合を考えてみましょう。
この場合、全体を共有している状態を解消するため、共有者は「この線からこの線までを私だけのものということにしてください」と他の共有者に対して請求することができます。
しかし、自宅の土地・建物は全体を一体として利用できなければ、その自宅に住むのは非常に不便になってしまいます。
よって、このような共有物分割請求が発生した場合には深刻な紛争へと発展してしまう可能性が高いと言えます。
共有者間で共有物の分割についての協議が調わない場合には、裁判所に対して共有物の分割を請求することになります(民法258条1項)。
共有物の現物を分割することができないとき、または分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、その共有物は競売にかけられてしまいます(同条2項)。
つまり、共有物分割に関する紛争が発生すると、最悪の場合、自宅の土地・建物など共有物を失ってしまう結果になりかねないということです。
なお、共有者間において、あらかじめ共有物の分割をしない合意をしておくことは可能です。
しかし、その期間は5年以内に限られており(更新は可能)、また共有物分割禁止の合意がなされていないケースも多く見受けられます。
2-5.共有持分権自体は一人で処分することが可能
先に解説したとおり、共有物の処分については、共有者全員の同意が必要です。
しかし、共有持分権自体の処分については、共有者が単独で行うことが可能です。
たとえば、もともと親族間で一つの物を共有していたとします。
しかし、揉め事などをきっかけに、ある共有者が全く見ず知らずの第三者に対して、その物の共有持分権を売却・譲渡してしまったらどうなるでしょうか。
残された共有者は、その全く見ず知らずの第三者との間で、共有物の管理や処分についての意見の調整を行うことになってしまいます。
相続と共有が絡み合う事例では最も解決が困難とも言える事態です。
2-6.固定資産税は共有者各自の負担
共有物の固定資産税は、共有者各自の負担となります。
税務署への納税は共有者間における代表者が一括して行うことになりますが、共有者が多すぎる場合には、固定資産税の徴収作業に手間がかかってしまいます。
場合によっては固定資産税の負担を事実上拒む共有者もいます。
なお、共有者間内部での取り決めとして、共有者の一人が固定資産税の全額を負担する旨を合意することは可能です。
しかし、その場合は納税をする共有者から納税をしない共有者に対して、固定資産税相当額の贈与が行われたものと取り扱われ、贈与税の課税が問題となる可能性がある点に注意が必要です。
3.共有物の相続により権利がさらに細分化するおそれがある
共有物の共有者の一人が死亡して相続が発生し、複数の相続人が死亡した共有者を相続する場合には、さらなる権利の細分化が発生することになります。
例えば、夫婦で自宅を共有していたとしましょう。
このとき夫が亡くなると、妻と夫の他の相続人とで自宅が共有になります。
そうなると、生活の拠点もばらばらなケースが多いでしょうから、上記で解説したような紛争のリスクがさらに高まってしまうことになります。
また、ここから更に相続が発生すると目も当てられないほど複雑になりますし、もし相続人の誰かが共有持分を売却・譲渡すると、先ほど解説したように全くの他人等が共有に入ってきます。
そのため、相続に際して共有状態を解消するか、少なくとも共有関係があまり広がり過ぎないように対処しておくことが望ましいです。
4.共有状態を解消する方法は?
共有状態を解消したいと思った場合に、取ることのできる方法について具体的に解説します。
4-1.遺産分割協議により単独所有に変更する
たとえば、先ほどの例のように夫婦で自宅の土地・建物を共有していて、夫が亡くなった場合を考えます。
この場合、共有者である妻も配偶者として相続人となり、遺産分割協議に参加することになります。
このような場合には、遺産分割協議の場で、相続財産である夫の共有持分権と妻の共有持分権をまとめる方向で話し合うのがいいでしょう。
最もシンプルな解決方法としては、妻が夫の共有持分権をすべて承継することにより、妻の単独所有とするということになります。
4-2.共有持分権の売買や贈与により一人にまとめる
相続の場面に限らず、共有者間で交渉・相談を行い、共有持分権を売買や贈与によって一人に集中させることで、共有状態を解消することができます。
ただし、売買の場合は共有持分権を譲り受ける側が資金を準備しなければならない点に注意しましょう。
また、贈与の場合には、贈与税の課税が問題となります(売買であっても、譲渡価格が不相当に低額である場合には、同じく贈与税の課税が問題となり得ます)。
4-3.土地を分筆する
土地を共有している場合で、更地であったり、または土地を分割してもそれぞれの部分を利用することに支障がなかったりする場合には、土地を分筆してしまうのも一つの解決方法です。
分筆とは、登記上1つの土地を全く別の土地として分けることです。
分筆後の土地をそれぞれ元共有者の単独所有とすることにより、共有状態を解消することができます。
4-4.共有持分権を一人に相続させる内容の遺言を残してもらう
相続の場面において、これ以上共有状態を拡大させないための予防策として、被相続人となる人の生前に、共有持分権を一人の相続人に相続させる旨の遺言を残してもらうことも考えられます。
特に夫婦で自宅の土地・建物を共有している場合には、お互いに死亡した際にはもう一方に対して共有持分権を単独相続させることを遺言で記しておけば、共有状態を解消して単独所有とすることができます。
遺言があれば、遺産分割協議において共有物の処理について揉めることも回避しやすくなります。
5.不動産の共有持分権移転の登録免許税について
相続や共有状態の解消で、不動産の共有持分権の移転について登記を行う場合には、登録免許税がかかります。
登録免許税の課税標準は、不動産の固定資産評価額に共有持分割合をかけた金額となります。
登録免許税の税率は0.4%です。
たとえば、固定資産評価額が3000万円の不動産を2分の1の割合で共有している被相続人から、共有持分を相続した場合にかかる登録免許税は、
3000万円 × 1/2 × 0.4% = 6万円
となります。
6.共有物の相続は弁護士に相談しよう
以上で解説したように、共有物について相続が発生すると、権利が細分化されて紛争の火種となってしまいます。
このような状態を放置しておくだけでもリスクが高いですし、その状態でさらに相続が発生してしまった場合、法律関係がさらに複雑になってしまいます。
そのため、共有物について相続が発生した場合には、早めに弁護士に相談して法律関係を整理しておくことがおすすめです。
弁護士は、共有者間の関係性や依頼者の希望などを聞いて、どのように処理すれば後の紛争の火種をなくすことができるかについて適切な提案をしてくれるでしょう。
まずはお気軽に弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。