相続放棄とは~手続と費用・デメリットなどを解説!
相続が起こったとき、資産がプラスになることだけではありません。被相続人が借金などの負債を残して亡くなった場合には、相…[続きを読む]
自分が相続人になったものの、欲しい遺産も特になかったり、他の相続人ともめるのもイヤで、なんとか放棄したい…そんな気持ちから調べてみても、遺産放棄、相続放棄など色々な放棄が出てきてよく分からなくなったという方もいらっしゃると思います。
そんなお悩みに答えるために、この記事では、「相続放棄」、「相続分放棄」、「遺産放棄」、「財産放棄」について、違いをわかりやすく解説します。
まずはそれぞれの用語の重要度と概要をご説明します。
相続放棄 | 相続分放棄 | 財産放棄 | 遺産放棄 |
---|---|---|---|
最重要 | 重要 | 低 | 誤用 |
プラスの財産もマイナスの財産も全て相続しないための制度(3ヶ月以内の制限あり) | プラスの財産のみを放棄すること(期間の制限なし) | 一般用語で、制度ではなく、特定の意味はない | 他の用語と混同されている可能性が高く、制度としても存在しない |
相続放棄、相続分放棄、財産放棄、遺産放棄という4つの言葉の中で、「相続放棄」だけが特殊な制度で、もっとも重要です。
そもそも相続は、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金などの債務)も引き継ぐ制度であり、借金だけを相続しないということは許されません。
債務を相続すれば、遺産からだけでなく、相続人自身の財産で支払う義務を負うことになります(民法920条)。
そして、基本的に債務の相続を免れるには「相続放棄」しかありません。
相続放棄をすると、当初から相続人ではなかった取扱いとなり、プラスの財産を相続できない代わりに債務も相続しなくて済みます(939条)。
【ここでのポイント】
借金(債務)を相続したくなければ、相続放棄しかありません。
さて、借金等の債務の相続を免れる唯一の方法が「相続放棄」であり、特別な効果のある制度ということはご説明しました。
言葉が似ている「相続分放棄」は「相続放棄」と誤解されがちですが、別の意味があります。
とは言え、相続分放棄は法律上の制度ではなく、実務上のものです。
「面倒な相続には関わりたくない」といった相続人のためにあります。
簡単に言えば、相続分放棄とは遺産に対する自分の取り分(割合)を放棄することです。
基本的には形式的な決まりもなく、遺産分割協議では「相続分を放棄する」旨を伝えれば足ります。
しかし、遺産分割調停・審判で相続分放棄するときには、「相続分放棄書(相続分放棄届出書)」という書類に記入して提出する必要があります。
相続放棄では、相続財産(プラスのもの)も債務(借金などマイナスのもの)も全て放棄します。
一方、相続分放棄は相続財産のみの放棄です。借金を放棄することはできず、債権者から請求された場合、支払いを拒むことはできません。
相続放棄の場合、3ヶ月という期間制限があります。
しかし、相続分放棄には期間制限はなく、いつでも行うことができます。
相続放棄は、家庭裁判所への申述が必要です。書類に記入し、戸籍等も集めて提出します。
他方、相続分放棄は基本的には方式の決まりはありません。相手方に伝えるだけでも大丈夫です。
ただ先ほども述べたとおり遺産分割調停・審判での相続分放棄に限り、「相続分放棄書」の提出が必要です。
なお、調停で相続分放棄書を提出すると、家庭裁判所から排除決定というものがされ、遺産分割に関わる必要はなくなります(家事事件手続法258条1項、43条1項)。
相続放棄をすると「最初から相続人ではなかった」ものとして扱われるため、原則として他の相続人が法定相続分のとおり相続します。
しかし相続分放棄をした場合には、その放棄した分を残った相続人がそれぞれの割合で相続します。
例えば、夫が遺産3,000万円を遺して亡くなり、妻と子供A,Bの2人が相続人になったとしましょう。
通常であれば、相続分は妻1/2、子供Aが1/4、子供Bも1/4です。
このとき、子供Bが相続放棄したとすると、妻と子供Aの相続分はそれぞれ1/2で1,500万ずつです。
子供Bが相続分放棄をすると、妻と子供Aが、子供Bの相続分を元の割合で取得し(1:2)、妻が2,000万、子供Aが1,000万ということになります。
ただし、調停や審判では裁判所の判断等で異なる計算がされることもあります。
【ここまでのポイント】
「相続分放棄」はいつでも簡単にできますが借金は放棄できません。
なお、相続分放棄と似たもので「相続分譲渡」というものもあります。気になる方は下記記事をお読みください。
財産放棄も遺産放棄も、制度として存在するものではありません。
そのため、定義や内容が確定しているわけではなく、基本的には使わないほうがいいでしょう。
とは言え、財産を放棄したい、遺産を放棄したいという意思の読み取れる言葉でもありますので、まずは財産放棄について考えられる内容をご紹介いたします。
次に、プラスの財産の放棄について見てみましょう。「財産放棄」という言葉は、プラスの財産の放棄全般を広く指す言葉として用いられることが多いと思います。
これは放棄する財産が、不動産か、それ以外の物(動産)か、誰かに対する権利(債権)かによって異なります。さらに、自分一人で所有しているか、複数人の共同で所有しているかによっても異なります。
単独所有 | 共同所有 | |
---|---|---|
不動産以外の物(動産) | 日常のゴミ捨てや粗大ゴミ排出と同じで自由にできる(自治体のルールに従う)。 | 2人以上で所有している場合「共有持分権」というものがあり、放棄や譲渡ができる。 |
不動産 | 放棄できない(ただし、放棄できるようにする法改正が検討されている)。 | 動産と同様に放棄できる。ただし全員の放棄は単独での放棄と同じで認められない。 |
誰かに対する権利(債権) | 自由に放棄できる。法律上は免除と言う(民法519条)。内容証明郵便などで証拠を残すのが望ましい。 |
「財産」に、マイナスの財産(借金などの債務)も含めて考えると、「債務の放棄」はできるのかがまず問題です。
当たり前の話ですが、債務の放棄はできません。もちろん、債権者の承諾があれば債務を負担しなくて済みますが、これは「債務の放棄」というよりは、債権者による「債権の放棄」です。
【ここでのポイント】
相続放棄しない限り債務を相続することになり、相続した債務は放棄できません。
最後に遺産放棄です。
繰り返しになりますが、「遺産放棄」は法律用語ではありませんし、このような制度もありません。
そのため、この言葉は様々な意味に使われる可能性があるので、どのような意味で用いられているのか、文脈をよく吟味する必要があります。
例えば、以下のような意味で使われる可能性があります。
「遺産を引き継ぎたくない」という悩みが、「故人に債務があったから」というなら相続放棄です。
「債務があろうとなかろうと、遺産は全部ほしくないから」というときも相続放棄でいいでしょう。
相続したうえで「相続分の放棄」をする、遺産分割協議で何ももらわない内容で合意することもできますが、相続放棄が一番簡単でお勧めです。もしかしたら債務があるのではないかという心配もいらなくなります。
「遺産の中に、欲しいものと欲しくないものがある」というとき、共同相続であれば、相続したうえで遺産分割協議で欲しいものだけ要求することになります。
単独相続であれば、欲しくないものは動産なら処分し、債権なら免除します。
ただし、単独相続した不動産の放棄は現時点では許されませんから、この点は十分に注意する必要があります。
利用価値のない不動産を漫然と相続してしまうと維持費や固定資産税の負担で、債務を相続したのと同じ結果になってしまいます。
相続放棄をしたい、遺産の中に欲しくないものがあるなどのお悩みの方は、相続に強い弁護士に御相談されることをお勧めします。