相続するなら知っておきたい換価分割と代償分割
相続が発生したとき、実家の土地・建物のような不動産が含まれていたら、どのように遺産分割すればいいのでしょうか?今回は…[続きを読む]
どんなに仲の良い親族であっても、遺産相続に関してはもめる可能性があります。
相続をめぐってトラブルに発展し、絶縁状態になるという例も少なくはありません。
また、実は、平成30年度の司法統計によると、遺産分割事件総数7507件中約33%が相続財産1000万円以下となっています。さらに5000万円以下だと、約76%にのぼります。
このことから相続問題は決してお金持ちだけの問題ではなく、むしろ資産が比較的少ない方であってももめやすいことがわかります。
この記事では、相続でもめやすいポイントを状況別にご紹介し、最後に相続でもめないようにするための方法とその関連記事をご紹介します。
まずは状況別にもめやすいパターンをご紹介します。
リンクでこの記事内の該当箇所に飛べますので、興味のあるパターンを読んでみてください。
1.相続財産をめぐってもめるパターン
・不動産の相続に不動産が含まれている
└被相続人の自宅について
・生命保険金が相続財産に含まれるかわからない
・被相続人が会社を経営していた
・被相続人に借金や債務があった
・被相続人が株や有価証券、デジタル遺産を持っていた
2.相続人をめぐってもめるパターン
・内縁者や隠し子がいる
・再婚で、連れ子がいる
・家族の中に疎遠な人がいる
・相続人間で、介護等の貢献度に差がある
└被相続人に対して虐待など非行をしていた相続人がいる
・生前、一部の相続人だけ贔屓されていた
・一部の相続人が自分勝手、隠し事をしているなど
3.その他のもめるパターン
・一部の相続人の使い込みが発覚する
・遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害している
・遺言書の無効が主張される
預貯金と違って、金銭的に評価がしづらいものが相続財産に含まれていると、もめやすくなります。
被相続人の相続財産に不動産が含まれる場合、不動産の取り扱いが問題になります。
たとえば、子供二人で親の遺産を分割するとき、「私は預貯金を相続するから、あなたは不動産を相続してね」というような決め方では、なかなか合意には至らないでしょう。
かといって、不動産の価額を算出しようとしても、立地や建物の状態、時代のニーズ等によって変動するため、金銭と違ってその価値を明確に評価するのは困難です。
また、親の住居を相続してそのまま住み続けるケースならまだしも、特に用途のない不動産を相続してしまうと、逆に負担にさえなりかねないので、不動産の相続を嫌がる方は少なくありません。
不動産をいくらとみなし、各相続人が何をどれだけ相続すれば公平になるのかがとてももめやすいのです。
不動産を相続する方法には、そのまま相続する現物分割のほか、売却して現金化しそのお金を分け合う換価分割、一部の相続人が相続する代わりに他の相続人に代価を支払う代償分割もあります。
不動産関連でお話しすると、被相続人の自宅についてももめやすいといえます。
従来大きな問題となっていたのは被相続人に先立たれた配偶者が被相続人の自宅に住み続けることができるかどうかでした。
2020年の相続法改正によって、配偶者居住権が認められるようになり、被相続人の死後も一定期間、配偶者は居住を続けることができるようになりました。
しかし、配偶者居住権は被相続人が亡くなったとたんに配偶者が住む場所を奪われるというような事態を防ぐためのものであって、永住を認めるものではありませんし、所有権はあくまで自宅の相続人にあります。
自宅に住み続ける人と自宅の所有者が異なる場合には、依然として対立する可能性があります。
被相続人の加入していた生命保険金を相続財産に含むかどうかも、もめやすいポイントです。
特定の相続人が生命保険金の受取人になっていた場合、その人が保険金に加えて遺産まで受け取るとなると不公平ではないか、と他の相続人が感じるおそれがあるためです。
ほとんどの場合、生命保険金は相続財産には含まれないのですが、場合によっては含まれることもあります。
被相続人が経営者だった場合、会社の相続をめぐってもめることがあります。
誰が後継者になるかというのが一番の問題でしょう。
特に株式会社の場合、持ち株に応じて会社に対して持つ権利が大きくなるようにできています。もしも被相続人が会社の相続について何も遺言を残さず他界し、複数人の子供たちが同じ分だけ株式を相続したとすると、全員が同じだけ会社に権利を持つことになります。
すると子供たちが会社の経営方針について対立した場合、話し合いが膠着してしまいます。
誰かが最終判断を下せるよう、一定の権力が集中するように相続させるのがおすすめです。
被相続人が持っているのが資産だけとは限りません。
多額の借金を抱えていた場合には、相続人が相続放棄したほうがよいケースもあります。
相続放棄した相続人は、被相続人の借金を返済する必要はなくなりますが、その代わりに預貯金など、プラスの資産も相続できなくなります。さらに相続放棄するには、「相続の開始および自身が相続人であることを知ってから3ヶ月」という期限内に、家庭裁判所に申し立てなくてはならず、これを過ぎると相続せざるをえなくなってしまいます。
負の遺産を相続したい人間はいません。
誰がどうやって借金を返済していくのか、もめるポイントといえるでしょう。
また、被相続人本人に借金はなくても、被相続人が債務の連帯保証人になっている可能性もあります。
不動産と同様に、現金と違い画一的な評価がしづらいのが株や有価証券、仮想通貨などのデジタル遺産です。
株、有価証券は価格が変動しますし、デジタル遺産はまだまだ法整備が進んでいません。また、相続人が資産運用の初心者だと、突然相続しても管理に困ってしまいます。
日々経済の動きをみながら運用するのはそれなりに時間や労力、知識も要しますから、相続人間で押し付け合いになってしまうおそれもあります。
相続人の運用に不安がある場合は、被相続人が予め売却してしまうのも一つの手です。
特に投資信託の相続についてはこちらの記事でわかりやすく解説しています。
また、デジタル遺産についても以下の記事でご説明しています。
相続人に何らかの特別な背景や事情があってもめるケースも多いです。
被相続人に愛人や隠し子がいた場合、もめやすくなります。
民法によると、内縁者には相続権はありません。
一方、隠し子は認知すると相続権を得ます。
認知とは、父親が子供に対して「その子供が自分の実の子どもであると認めること」を指しますが、仮に父親が亡くなった後でも、死後認知や遺言認知の可能性があります。
むしろ、死後に愛人や隠し子の存在が発覚したときのほうが、より配偶者などのショックも大きく、もめやすいでしょう。
近年再婚が増加するにつれ、連れ子がいるケースも増えています。
たとえば被相続人の再婚相手に連れ子がいた場合、そのままでは連れ子に相続権はありません。
連れ子に相続させるかどうかは、再婚夫婦の間でもめる可能性があります。
もしも連れ子に相続させたい場合は、養子縁組か遺贈をしなくてはなりません。
もう何年も音信不通で連絡がとれなかったり、行方がわからなかったりと、家族の中に疎遠な人がいる場合、もめる原因になります。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければならず、一人でも欠けていては始められないからです。
あらゆる手段を尽くして調査して、どうしても居場所がたどれないような場合には、不在者財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうなどの手続きをとらなくてはなりません。
また、このように疎遠な相続人であっても法定相続分はあります。
被相続人の子供たちの中で、長男が何十年も前に家出したきり音沙汰がないというような場合でも、子供は子供ですから、他の兄弟たちと相続分は同じです。
「あんな親不孝者にはそんなに相続させたくない」など、相続分に差をつけたいというときには被相続人がきちんと遺言書をのこしておくことが重要です。
被相続人の子供が複数いる場合、その子供たちは長子から末子までそれぞれが同じ相続分になります。
しかし、生前、兄弟の中で長男ばかりが被相続人の介護をしていたなど貢献度に差があった場合に、相続分が同じなのは不公平ではないか、と問題になるケースは多いです。
被相続人の配偶者や直系血族・兄弟姉妹にとって、被相続人をある程度介護することは義務の範囲内(752条・877条)なので、結論をいうと、相続発生後、介護を理由に相続分を変更することは難しいといえます。
しかし、場合によっては「寄与分」を主張できる可能性があります。
また、もしも遺言書をのこすのに十分な判断能力を被相続人がまだお持ちであれば、介護者に対して多く相続させるよう遺言書に記してもらうのも有効です。
介護とは対照的に、一部の相続人が被相続人に虐待をしていたなど著しい非行がみられる場合には、欠格や廃除できる可能性があります。
たとえば被相続人の子供たちの中で、末っ子だけ開業資金として多額のお金を出してもらっていたなど、被相続人から生前にもらった利益について相続人間で差があるとき、もめる原因になります。
このように一部の相続人だけ利益を得ている場合、「特別受益」として相続分の前渡しとみなし、遺産分割の際に考慮できる可能性があります。
特別受益の対象になる贈与の例としては、婚姻や養子縁組のための贈与や、学費・車・不動産など生活に必要なものの贈与などがあります。
被相続人が遺言書をのこさずに亡くなった場合、相続人同士で遺産分割協議をして相続分を決めなくてはなりません。
しかし、一部の相続人が自分の都合で強引に協議を進めようとしたり、遺産について隠し事をしていたりすると、話し合いがどんどんこじれてしまいます。
結局一部の人にとって不平等な相続になってしまうことも少なくありません。
このように信頼できない相続人がいて協議が難航してしまうときは、弁護士に依頼し、仲介してもらうのがおすすめです。
依頼者の心強い味方になると同時に、第三者として冷静に遺産分割を監督してくれます。
一部の相続人が相続財産を不当に使い込むトラブルは非常に多く発生しています。
典型的な使い込みの例としては、「被相続人の生前、同居人である相続人が生活費に紛れて使い込んでいた」場合もあれば、「死後、相続人が被相続人の口座からこっそり預貯金を引き出す」という場合もあります。
生前の使い込みを防止するのは困難かもしれませんが、必要であれば成年後見人を選定するなど、被相続人の財産に触れることができる人を制限しておくとよいでしょう。
死後の使い込みについては、相続が発生したら直ちに銀行に連絡し、口座を凍結させるのが有効です。
その他、使い込み関連としては、使い込みの事実はないのに他の相続人から使い込みを疑われて話し合いでもめる、という例も珍しくありません。
本記事では遺産分割でもめないための解決策として遺言書作成をおすすめしていますが、遺言書に記した内容が仇となり、逆にもめる原因を作ってしまうこともあるので注意が必要です。
法定相続人(被相続人の兄弟姉妹や相続人欠格・廃除された相続人は除く)には、「遺留分」という最低限もらえる相続財産の取り分の割合が定められています。
たとえば被相続人に配偶者と子供が複数人いた場合、遺留分を考慮せず、遺言書で「配偶者に全ての遺産を相続する」など記した場合、配偶者が子供たちから遺留分侵害請求を受ける可能性があります。
遺言書で遺産相続について指定する場合には、相続人の遺留分を侵害していないかどうかをきちんと確認しないと、後々もめるかもしれません。
遺言書をめぐるトラブルとしては、上記で説明した遺留分侵害の他に、遺言書そのものの有効性についてもめることがあります。
遺言書は書き方が法律で細かく定められています。
例えば自筆証書遺言で手書きで書かなくてはならないところをワープロで作成していたり、署名捺印が抜けていたりすると、その遺言書は法的には無効です。
また、認知症になっていたはずの頃に作成された遺言書なども、一部の相続人から遺言書の無効が主張され、よく争いになります。
被相続人の死後、遺言書が無効になる事態を防止するためにも、公証人という専門家の立ち会いのもと作成する公正証書遺言がおすすめなのです。
今回は遺産相続でもめるケースをご紹介してきました。
もめやすい遺産相続の大きな特徴は、生前に何も準備をしていないことです。
相続でもめないようにするには、公正証書遺言を作成し、弁護士を遺言執行者として指定するのが王道です。
公正証書遺言は自筆証書遺言や秘密証書遺言よりも信頼性が高く、また遺言執行者を弁護士に依頼することで、相続のあらゆる煩雑な手続きをスムーズに行ってもらえます。
遺言書を含めた生前対策がなぜ必要かについては、こちらの記事でもご説明しています。
また、遺言書を書く際には、被相続人の相続財産・相続人を洗い出し、生前の人間関係も考慮しつつ、遺言書の方式や遺留分にも注意します。
どこで思わぬ不備があるかわかりませんから、弁護士に作成のサポートをしてもらうのがよいでしょう。
それと同時に、遺言執行者に弁護士を指定しておくことで、作成から携わってきた弁護士が被相続人の意思を間違いなく遂行・実現してくれるはずです。
いずれにせよ、遺産分割でもめないようにするためには、被相続人を中心として事前に入念な準備をしておくことが最も大切なのです。