不動産があると相続でもめる理由
遺産相続をする場合、有効な遺言書がなければ相続人同士が遺産分割協議を行って遺産の分割法方を決める必要があります。この…[続きを読む]
どんなに仲の良い親子や兄弟姉妹でも、遺産相続では、もめてしまう可能性があります。
相続をめぐる揉め事が発展し、絶縁状態になってしまう例も少なくはありません。
実は、令和3年度の司法統計によると、裁判手続きを経た遺産分割事件の総数6,934件中、相続財産の額1,000万円以下の事件が2,279件と約33%となっており、5,000万円以下の事件では、約77%にものぼります(※)。
この事実からも、相続争いの原因は遺産額の多寡ではないことがわかります。
この記事では、相続でもめやすいポイントを状況別にご紹介し、最後に相続でもめないようにするための方法をご紹介します。
※【出典】「第52表遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割しない」を除く)ー遺産の価額別ー全家庭裁判所」|裁判所
最初に、遺産によってもめやすくなるケースをご紹介します。
相続財産に不動産が含まれていると、価格が変動するため、遺産分割での不動産の取り扱いは、難しい問題になります。
不動産を含む遺産を分割する際に、不動産を取得する相続人は、不動産の評価額をできるだけ低く見積もって、少しでも多く他の遺産を相続しようとするでしょう。一方、他の相続人は、不動産の評価額が高いほうが有利になります。
実務上は、遺産分割時を遺産評価の基準時とする運用がなされていますが、当事者間で合意ができれば、他の基準を使っても遺産分割は成立します。逆を言うと、合意ができれなければ、遺産分割調停や審判へ持ち込むしかありません。
各相続人の立場によって、不動産の評価額が異なるために、遺産分割がもめやすくなるのです。
価値のある遺産がほとんど実家のみの場合も、相続がもめる原因となりかねません。実家であっても、遺言書がなければ、遺産分割の対象です。実家は、相続人で分け合うことができず、誰が継ぐのかでもめてしまうのです。
代償分割をしようにも、実家の評価額を巡り、実家を取得する相続人と、実家を取得しない相続人とで代償金の額で対立してしまう可能性もあります。
もし、実家に相続人が被相続人と同居していた場合に実家を相続できなければ、配偶者でない限り、出ていかなければならず、住居を失ってしまいます。
また、価値のあまりない田舎の実家を相続してしまうと、固定資産税や維持費などが逆に負担になりかねないので、不動産の相続を嫌がる相続人も少なくなく、実家の押し付け合いになってしまうこともあります。
相続財産の額と比べて生命保険金の額があまりに大きいと、相続ではもめやすくなります。
原則として、生命保険金は、受取人として指定された人個人の財産となり、相続財産としては扱われません。したがって、受取人が相続人であっても、生命保険金は、遺産分割の対象とはなりません。
しかし、遺産の額と比べてあまりに生命保険金の額が大きければ、受取人とならなかった他の相続人としては面白くないでしょう。
事実、あまりに公平性を欠く相続人への生命保険金は、特別受益に該当するとした最高裁判所の判例もあります(最高裁平成16年10月29日決定)。
こうしたケースでもめごとになれば、最悪の場合、裁判によって解決するしかなくなります。
被相続人が会社のオーナー経営者が事業を後継者に承継していなければ、誰が会社を継ぐのかを巡ってもめることになる可能性が高くなります。
オーナ経営者が所有した自社株式も相続財産となり、遺言書がなければ、遺産分割の対象です。本来であれば、オーナー経営者の自社株式は、経営権の源として、後継者にすべてを承継させるべきです。
後継者について相続人全員が合意できれば、その後継者が株式すべてを相続すればいいでしょう。しかし、遺産分割が紛糾すれば、後継者が決まらず、株式の相続はおろか、会社の経営にも影響します。
相続人に何らかの特別な背景や事情があってもめるケースも多くなります。
被相続人の子供たちである兄弟姉妹などの仲が悪い場合には、積年の感情が遺産分割をきっかけに爆発してしまい話し合いにならず、争いになってしまう可能性が高くなります。争いが酷くなれば、兄弟姉妹の関係に決定的な亀裂が生じ、絶縁状態という事態も発生します。
疎遠な相続人がいる場合にも、その他の相続人との溝が原因で、意見が対立する可能性が高くなってしまいます。
内縁者には相続権はありません。しかし、被相続人が高額な生前贈与や遺贈をしていれば、相続人から特別受益を主張される可能性があります。
また、内縁者が遺贈によって遺産を手にすれば、相続人が遺言無効確認訴訟といった法的手段に出る可能性もあります。
被相続人は、遺言書などによって隠し子である婚外子を認知することができ、婚外子側からも、父親の死亡後3年以内であれば、認知を請求することができ、認知されれば、相続権を取得します。
しかし、納得がいかない相続人は、遺言無効確認訴訟を提起する可能性もあり、相続権を取得できたとしても、遺産分割協議では認知された婚外子との意見が対立する可能性は高くなります。
被相続人に、現在の家族のほかに前婚の子がいる場合にも、相続でもめてしまう可能性があります。
前婚の子であっても、被相続人の子であれば、相続権を有します。
したがって、遺言書がなければ、前婚の子に、遺産分割協議に参加する権利があります。また、遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければ、成立しません。
しかし、前婚の子が相続人として遺産分割協議に参加すれば、他の相続人である現在の相続人が感情的になり、意見が対立してしまう可能性は高いでしょう。
被相続人への介護などの貢献に差がある場合には、相続の公平を図るため民法では、「寄与分」が定められています。
しかし、被相続人への貢献をしていない相続人からは否定されてしまうことが多く、もめる原因となります。
また、民法では、被相続人の配偶者や直系血族・兄弟姉妹には、被相続人を介護することは義務の範囲内(752条・877条)となっており、相続発生後、介護を理由に寄与分を認めてもらうのは、難しい反面、「寄与分」を主張できる可能性もあります。
被相続人からの生前贈与に相続人間の差があると、もめる原因になります。
一部の相続人だけ利益を得ている場合、「特別受益」として相続分の前渡しとみなし、遺産分割の際に考慮できる可能性があります。
特別受益の対象になる贈与の例には、婚姻や養子縁組のための贈与や、学費・車・不動産など生活に必要なものの贈与などがあります。
相続財産や、相続人以外の原因で相続がもめてしまうこともあります。
一部の相続人が、相続財産を不当に使い込むトラブルは数多く発生しています。遺産の使い込みは、被相続人と相続人の1人が同居していると、発生しやすくなります。
疑われた相続人は、遺産の使い込みを認めることは少なく、遺産を取り戻すには、使い込みを証明するために数々の証拠を揃えて、裁判を起こさなければなりません。
被相続人がせっかく遺した遺言書が、却って相続がもめる原因となってしまうケースもあります。遺言書が遺留分を侵害している場合です。
法定相続人(被相続人の兄弟姉妹や相続人欠格・廃除された相続人は除く)には、「遺留分」という最低限もらえる相続財産の取り分の割合が定められています。
例えば、「配偶者に全ての遺産を相続する」などと遺留分を考慮せずに遺言書に記すと、配偶者は相続人である子供たちから遺留分侵害請求を受ける可能性があります。
遺言書で相続人が取得する財産を指定する際に、各相続人の遺留分を確認しなければ、相続でもめる原因をわざわざ作ってしまうことになるのです。
遺言書そのものの有効性についてもめることもあります。
遺言者が認知症になった頃に作成された遺言書などは、遺言書に不服がある相続人から遺言書の無効が主張され、争いになることがあります。
今回は遺産相続でもめるケースをご紹介してきました。
もめやすい遺産相続の特徴は、生前の準備が不足していることです。
ここでは、遺産相続でもめないように、次のことをお勧めします。
相続について話し合うことは、残念ながら日本ではまだ一般的ではありません。ご自分や親の死後について話し合うことになるからです。
しかし、資産の現状を把握しない限り、どのような相続対策が可能なのかが分かりません。
さらに、相続人となるご自分の子供たちなどを納得させるには、誰にどの資産を相続させたいのかを伝えなければなりません。
一方で、相続人となるご自分の子供たちなどの意見を聴くことで、話し合いを深め、ご自分の意見を修正することもできるでしょう。
次に、相続でもめないようにするための対策として、書遺言を作成しておくことが挙げられます。
遺言書は、公正証書遺言で作成することをお勧めします。公正証書遺言は自筆証書遺言や秘密証書遺言よりも信頼性が高く、法的に無効になることはまずありません。
上記で挙げたようなケースに該当すると思われる方は、相続に強い弁護士に前もって相談しておくことをお勧めします。相続に弁護士なら、状況に沿った解決案の提案や、相続人の遺留分を侵害しない遺言書の作成についてアドバイスしてくれることでしょう。
また、遺言執行者を弁護士に依頼すれば、相続発生後のあらゆる煩雑な手続きをスムーズに行ってもらえます。
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弁護士に相続を相談したからといって、依頼しなければならないことはありません。
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後悔しないためにも、いくつかの事務所をまわって、ご自分が本当に「依頼したい」と思った弁護士にご依頼ください。
今でこそ弁護士報酬は自由化されていますが、2004年3月までは、弁護士報酬基準が定められていました。
そのため、現在も、この旧弁護士報酬基準を使って弁護士報酬を定めている弁護士事務所が多いのが実情で、この報酬基準を知ることで弁護士報酬の相場を理解することができます。
一例を挙げると、遺言書作成サポートの弁護士報酬の相場は、10万円~20万円程度といわれています(公証人への手数料除く)。
一口に相続といっても遺言書の作成サポートから遺産分割調停・審判まで幅広く、ここでは、すべての相場をご紹介することはできませんが、詳しくは、「相続、遺産分割、遺留分請求などでの弁護士の役割と弁護士費用の相場」で詳述していますので、気になる方は、ご一読ください。