相続手続きしないとどうなる?遺産を放置したままのリスクと対処法

「郷里の父が亡くなったけれど、めぼしい遺産があるわけではないから、特に相続の手続をする必要はないと思って何もしていない……このままだと、どうなるの?」

「母が亡くなり、兄と自分が共同相続人となったけれど、若いときに家を出た兄は相続に無関心で、手続をしようと呼びかけても返事もくれない……このままだと、どうなるの?」

このような例は珍しくありませんが、いずれも相続の手続をせずに遺産を放置しておくことはお勧めできません。各種の不利益を被るリスクがあるからです。

この記事では、相続手続きをしない場合に、どのようなリスクが生じるのかを説明し、相続の連絡を無視する共同相続人への対処方法も解説します。

1.遺言書の検認手続をしないままだと、どうなるの?

家族・親族が亡くなった場合に、まず注意するべきことは遺言書の有無を確認することです。

もしも遺言書を保管していたり、発見したりした場合は、相続開始を知った後、開封前に、遅滞なく家庭裁判所に提出して検認手続を請求する必要があります。これは遺言書の内容を裁判所が確認して記録し、後の改変を防止するためです。

これに違反すると5万円以下の過料に処せられてしまいます(民法1004条、1005条)。

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2.相続放棄・限定承認をしないままだと、どうなるの?

何も遺産がない場合でも、相続の手続を怠るべきではありません。遺産は無くても、負債はあるかも知れないからです。

相続はプラスの財産のみならず、借金などマイナスの負債も引き継ぐため、相続放棄と限定承認というリスク回避の手続きが法定されています。相続放棄をすれば、最初から相続人でなかったことになり(939条)、限定承認をすれば負債を返済する責任は相続財産の限度に限定されます(922条)。

ただし、これらの手続は、相続開始を知ったときから3ヶ月以内に行う必要があり(915条)、原則としてこれを超えると限定承認・相続放棄ができなくなってしまいます

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3.相続にかかわる税金の申告をしないと、どうなるの?

相続が発生すると、税金の申告手続も必要です。これには準確定申告と相続税申告があり、怠ると高額のペナルティを課されてしまいます。

3-1.準確定申告をしないと

故人に所得があった場合、死亡した年の1月1日から死亡日までの所得に所得税がかかります。そのための申告が準確定申告で、相続人に申告義務があります。この申告及び納税は、相続があることを知った日の翌日から4か月以内が期限です(所得税法124条、125条)。

申告期限を過ぎた場合の無申告加算税は、15%~20%という高率で、さらに納付期限を過ぎた延滞税が年7.3%から14.6%もかかります。

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3-2.相続税申告をしないと

遺産総額が、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超えるときは相続税申告が必要です。申告及び納税の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です(相続税法27条)。

相続税の申告も、準確定申告と同様に、申告期限を過ぎると無申告加算税、納付期限を過ぎると延滞税が加わります。

期限内に遺産分割が終了していない場合でも、法定相続分にしたがった相続税の申告が必要です。

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4.遺産分割をしておかないと、どうなるの?

遺産分割それ自体には期限はありません。しかし、遺産分割をせずに共同相続人による共有状態を続けていると、二次相続、三次相続が発生し、どんどん法定相続人が増加し、共有者が何十人~百何十人という事態に至ってしまいます。

そうなると当事者での遺産分割協議は事実上不可能で、家庭裁判所の調停や審判手続も、相当な時間と費用がかかってしまいます。

また、共同相続の場合は、遺産分割を経ないと、預金の名義書換・払い戻し、株式の名義書換はできません

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5.預貯金の名義を変更しないままだと、どうなるの?

共同相続の場合、遺産分割を経ないと預貯金の名義書換や払い戻しはできないことが原則です(※)。

最高裁平成28年12月19日決定

また単独相続であっても、そもそも金融機関への預貯金の払戻請求権は、権利を行使できることを知った時から5年間、権利を行使することができるときから10年間の消滅時効にかかります(民法166条)。

金融機関側は、記録から確認できれば時効の主張は控えることが通常ですが、法的には支払拒否も許され、その実例もありますから、早めに払い戻しをしておくべきでしょう。

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6.株式の名義を変更しないままだと、どうなるの?

株式会社では、株主名簿を作成して多数の株主を管理します(会社法121条)。株式を相続しても、名義を書き換えないと、利益配当などに関する通知を受け取れず、事実上、利益配当を得られなくなる危険があります。

しかも、5年間にわたり株主に対する通知などが届かない所在不明株主については、その株式の競売又は会社の買い取りが可能です(会社法196条1項、197条1項1号、同2項及び3項)。その場合、相続人は会社に代金を請求できますが、株式は失ってしまいます。

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7.死亡保険金の請求をしないままだと、どうなるの?

被相続人を被保険者とする死亡保険金で、受取人が被相続人自身または「法定相続人」と指定されていた場合は、その相続人の法定相続分の割合に応じた金額の支払を請求できます。もちろん受取人が相続人のうちの「A」と特定して指定されていた場合は、その者が全額を請求できます。

ただし、死亡保険金の請求権は、権利を行使できるときから3年を過ぎると時効により権利を失ってしまいますから、早めに請求手続をしましょう(保険法95条1項)。

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8.遺族年金の請求をしないままだと、どうなるの?

遺族年金の請求は5年を過ぎると時効により権利を失います(国民年金法102条1項、厚生年金保険法92条1項、会計法30条)。

ただし、やむを得ない事情により、時効完成前に請求をすることができなかった場合は、救済措置があります。

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9.遺留分侵害額請求をしないままだと、どうなるの?

例えば、父が死亡し、長男と次男が相続人だったケースで、父が全遺産を長男に相続させると遺言を残したとしましょう。

法定相続人(ただし、兄弟姉妹を除く)には、最低限、遺産の一定割合を得る権利が保障されています。これが遺留分です(1042条)。

この場合の次男は、その法定相続分の半分(全体の25%)が遺留分ですから、これに相当する金額を遺留分侵害額として長男に請求できます(1046条1項)。

ただ、この遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年、かつ、相続開始の時から10年という期間制限があります(1048条)。この期間を過ぎてしまえば、次男は何ももらえないことになります。

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10.特別受益・寄与分の主張をしないままだと、どうなるの?

遺産分割では、遺贈や生前贈与を受けた共同相続人に対し、他の相続人は「その財産は特別受益だ」と主張し、公平を図るため、計算上、その財産も遺産に含めたうえで、各人の相続分を算定するよう要求できます(903条)。

また、例えば被相続人の家業を無償で手伝うなど、特別の寄与によって相続財産を維持・増加させた法定相続人は、その相続分の増額を要求できます。これが寄与分の制度です(904条の2)。

これまで特別受益、寄与分には期間制限はなく、遺産分割調停、審判において、いつまでも主張できましたが、2023(令和5)年4月1日以降は期間を制限されます。

遺産分割を促進して、所有者のわからない土地の増加に歯止めをかける等の趣旨から、特別受益・寄与分主張に期限を設けるよう民法が改正され、同日から施行されるからです(※)。

※民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)「法律案(衆議院サイト)」、「新旧対象条文(法務省サイト)

改正後は、特別受益と寄与分を主張できる期限は、相続開始の時から10年です(改正法904条の3柱書)。但し、10年経過前に家庭裁判所に遺産の分割を請求をした場合は除きます(改正法904条の3第1号)。

特別受益・寄与分の期限ー改正法施行前の相続と経過措置

特別受益・寄与分の期間制限は、改正法施行前(2023(令和5)年3月31日以前)に発生した相続にも適用があることに注意しましょう。

ただし、これには経過措置があり、以下いずれか遅い時までに、家庭裁判所に遺産の分割請求をしていたときなどは適用が除外されます(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第3条)。

  1. 相続開始から10年を経過する時点
  2. 施行日(2023(令和5)年4月1日)から5年を経過する時点

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11.特別寄与者の主張をしないままだと、どうなるの?

「亡くなった父は、長男の嫁が長年にわたり無償で介護してくれたので、高額な介護費用を支払わなくて済み遺産を残せた。それなのに長男と他の兄弟の相続分が同じなのは不公平だ」

このような例は珍しくありません。しかし、嫁は法定相続人ではありませんから、いかに貢献しても相続では報われません。

そこで、このような遺産の維持・増加に特別の寄与をした親族は、寄与に応じた特別寄与料を相続人に請求できます(1050条2項)。これが「特別寄与者」です。

特別寄与料につき、話合いで解決できない場合は、家庭裁判所に協議に代わる処分を請求できます。しかし、その請求には期限があり、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月以内、かつ相続開始の時から1年以内です(1050条2項)。

あなたの配偶者が舅を介護していた場合、期限内に特別寄与者の主張をしておかないと、配偶者の努力が報われなくなってしまいます

12.不動産の相続登記をしないままだと、どうなるの?

12-1.相続登記をしないと処罰される

今のところ、不動産を相続しても、その登記名義の変更は任意に過ぎず、義務ではありませんが、2024(令和6)年4月1日以降は違います。

所有者不明の不動産増加を防止するため、不動産登記法も改正され、相続の登記は期限付きの義務となり、その改正法は、2024(令和6)年4月1日に施行されるからです。

改正法では、不動産所有権を相続した場合、相続開始を知り、かつ、権利取得を知った日から3年以内に登記を申請する義務があります(改正不動産登記法76条の2第1項)。

また、法定相続分による共有の相続登記を済ませていても、その後、遺産分割で法定相続分を超える所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に、その旨の登記を申請する義務があります(同法76条の2第2項)。

これらの違反者は10万円以下の過料に処せられます(改正不動産登記法164条1項)。

相続登記の義務化ー改正法施行前の相続と経過措置

この登記義務の規定は、改正不動産登記法の施行日(2024(令和6)年4月1日)前に発生した相続にも適用されます(民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第5条6項)。

ただ、これにも経過措置があります。

まず、施行日前に発生した相続については、相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日又は改正法施行日のいずれか遅い日から3年以内が期限です(同項)。

次に、施行日前に発生した相続について、法定相続分での相続登記が終了した後に、遺産分割で法定相続分を超える所有権を取得した場合には、遺産分割の日又は改正法施行日のいずれか遅い日から3年以内が期限です(同項)。

相続登記とは、相続により不動産の所有権が移転した場合に、その不動産の所有権移転登記を行うことです。不動産は、登記する…[続きを読む]

12-2.不動産を勝手に売却される危険

相続で取得した不動産の登記名義を変更しておかないと、法定相続分を超えて相続できた権利があっても、その権利を第三者に主張することはできません(民法899条の2)。

このため、もしも他の共同相続人が、不動産を第三者に売却し、買主が登記してしまうと相続した権利を失ってしまう危険がありますから、早めに登記することが大切です。

13.共同相続人が相続手続きを拒否している。どうすればいい?

さて、自分は相続手続をしたくても、共同相続人が手続を拒否したり、連絡にも応じない場合があります。そのような場合には、どうすれば良いのでしょうか?

13-1.税金関係

準確定申告は一人でできる

準確定申告は、共同相続人がある場合には、次のどちらでも可能です(所得税法施行令263条2項)。

  1. 全員が連署したひとつの書面を提出する方法
  2. 各人が、他の相続人の氏名を付記した書面を別々に提出する方法

ただし、2.の場合は、他の相続人に、遅滞なく、申告内容を通知しなくてはなりません(同条3項)。

なお準確定申告による所得税の納付義務は、共同相続人の法定相続分に応じて按分されますから、自己の法定相続分に応じた金額を納付すれば足ります(国税通則法5条1項、2項)。

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相続税申告も一人でできるが、連帯納付義務に注意

相続税は、相続によって財産を取得した各相続人が納税義務者ですから(相続税法第1条の3)、各人が個別に申告書を提出します(同法27条1項)。ただし、共同相続人があるときは、連署したひとつの書面を提出することもできます(同条5項)。

各相続人は、自己に課税された相続税額を納付することになります。

ただし、注意するべきは、相続税では共同相続人が相続税を納付できない場合には、他の相続人も連帯して納付する義務(連帯納付義務)を課されている点です。この場合、自分が相続した利益を上限として、他の相続人の相続税も支払わなくてはなりません(同法34条)。

13-2.遺産の分割は家庭裁判所を利用する

他の共同相続人が遺産分割協議に応じない、連絡すら応じないという場合は、当事者での協議は無理ですから、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てし、裁判所に呼び出してもらったうえで、調停委員と裁判官を介して話し合いを行うことになります(家事事件手続法244条)。

調停の呼び出しにも応じない場合は、自動的に手続は遺産分割調停に進み、裁判官に遺産を分割してもらうことになります(民法907条、家事事件手続法272条4項)。

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14.まとめ

以上のとおり、相続の手続をしないままだと、各種の不利益を受けてしまいます。できるだけ早く手続に着手するべきです。

相続問題の法律専門家である弁護士に相談すれば、スピーディに手続を進めることができるでしょう。

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監修
弁護士相談Cafe編集部
弁護士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続に関する記事を250以上作成(2022年1月時点)。
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